菌A「僕らのこと酔っぱらいと思うとるやろ~。」
「思うとるやろって、酔っぱらいじゃないですか。」
菌B「言うね~。じゃあ、知っとる?僕ら酵母にとってアルコールは糖を分解した後の廃棄物よ。だからぜんぶ吐き出してる。飲んでないよ。飲むのは君らだけ笑。」
菌C「あ、これ?これはただの砂糖水よ。酔ってるように見えるのは、生まれつき。意識丸出しなだけ。」
「な、なるほど。」(酔ってるようにしか見えないけど)
菌A「そうそう。教えたいことやったね。実は君らの未来のことなんよ。君らの未来が危ない。もうそろそろ、水がなくなるよ。」
「水が?」
菌B「そう。人口が恐ろしい速度で増え続けてるのは知っとるよね。生活水準も上がってるから、当然足らなくなる。で、教えたい話というのは、その解決策が、ある。」
「え、ほんとですか?!」
菌C「うん。実は歴史は繰り返してるんよね。僕らは何度も似たような時代を乗り越えてきた。だからいま何が起きようとしているのか、よく分かる。」
菌A「前回「長いっ」て怒られたんで駆け足で未来を知ってもらう。さっそくだけど、IT革命がそろそろ終わるよね。次、何がくるか分かる?」
「IT革命の後?エネルギー革命とか、IoT(モノのインターネット)とか、ですか。」
菌B「それはIT革命の一部。次に来るのはね、構造革命よ。」
「構造革命?」(※)
産業革命 Industrial revolution – Formulation of the Production system |
菌C「そう。世界の構造は変わる。細かく分かれる。その後、国境がなくなるよ。」
「ほんとですか?」
菌A「まあ、国境はずいぶん先やけどね。成熟した技術に合わせて、構造が再構築される。人間社会っていうのは、実はまだ混とんとしてるんよ、実は。」
菌B「この3段階のプロセスは太古の昔から変わらんよ。単細胞の時代から、生きとし生けるものはすべて、まず生産システム、産業革命から入る。」
菌C「次がネットワーク作り。IT革命。お互いの生産システムに合わせて、相互に補完するように情報共有する。植物と粘菌のように。」(第2章参照)
菌A「そして次にくるのが、」
「組織の再構築。」
菌B「そのとーり。今の国のサイズはバラバラよね。なぜかといえば、人種ごとの組織だから。でもそれが生活に根差した組織に変わっていく。」
菌C「すぐれた地域は今の構造に違和感と不安を覚えはじめる。生きにくさを感じはじめる。大事なのは生きる場。つまり「経済圏」が組織の単位となる。日本の道州制もその一つ。」
(道州制、Wikipedia, Public Domain)
菌A「具体的には数千万人前後の経済圏が単位となり、水、電気、交通、行政サービスが再構築される。数千万人を超えると手の届かないことが多くなるからね。」
菌B「地方分権の後、各国の中央政府は希薄化、均質化して相互理解がすすみ、安定化する。その結果、紛争の元になる国境はなくなり、県境程度が残る。」
菌C「これが構造革命だ。」(※)
菌A「各地域は、世界の中での立ち位置を意識するようになる。自分の経済圏の得意分野は何か。役割は何か。それが強みになる。」
菌B「まさに我々微生物が体験してきた歴史を繰り返すことになる。」
「なるほど。」
菌C「僕らもかつて同じような、食料不足、水不足に直面したとき、そうした構造革命がおこり、多くの生活圏が得意分野を競った。」
菌A「やがて危機の最前線に、天才が現れる。構造革命で発生する優れた生活圏は、それそのものが危機に対するインキュベーター(孵化装置)になるんだ。」
菌B「資源に近い生活圏ではそれを高速で取り込むチャンネルが発明され、水に近い生活圏では水を吸収するチャンネルが誕生した。」
(水チャンネル(アクアポリン), AQP1, 1J4N, Protein Data Bank Japan (PDBj))
「イオンチャンネル、水チャンネル?」
菌A「そう。この水チャンネルを水に最も近い細胞膜の表面に集中的に取り付けたのだ。細胞膜の表面は超親水性。そこに水チャンネルを取り付けた。」
(細胞膜(脂質二重層)の表面は超親水性(Hydrophilic heads)、Wikipedia, Public Domail)
菌B「君らにももちろん、その名残がある。たとえばイオンチャンネルは脳や筋肉に分布し、水チャンネルは皮膚や腎臓に集中している。ドライスキンの要因の一つは、皮膚の水チャンネルの減少だ。」
菌C「もともとはバラバラだった機能が、見事に協力関係を築いている。君の体そのものが、一個の未来の地球なんだ。右手と左手で喧嘩したりはしない。役割が分かっているからね。」
菌A「では、海に囲まれた温暖な九州という経済圏に期待される役割とは何か。その一つを、先見の明に長けた日本の技術者たちがすでに発明し、いま君たちの手の中にある。」
菌B「真鍋博士の超親水性膜、PD膜だ。」
「PD膜。」
菌C「そう。イオンの移動。それは水を介しておこなわれる。だから植物はもっとも水になじむセルロースを素材に選び、栄養を成分変化なしに効率よく取り出すことに成功し、地上最強となった。」
(C6シリーズに使用されているプラセンタ・プラズマは、PD膜によって栄養成分を全く変質させずに取り出した胎盤組織液です。)
菌A「この超親水性のセルロース膜を自由自在に加工できるようにしたPD膜を、君らは手にしている。PD膜に水の移送機能をつけてみたいと思わない?」
「思います。すごいです。興奮します。でも、それだけに、ちょっと気になるのは、こんなこと大声で言っちゃっていいんですか?」
菌B「なにが?」
「いや、なにがって、、酵母のあなた方に言ってもしょうがないかもしれませんけど、なんだか、企業秘密?になるんじゃないのかなー、と、、」
菌C「あー!もう!その考え方がもう人間っちゃって言うたろうもん!一体感が狭い!特許制度はね、そもそも防衛が目的よ。仲間まで排除してどうするんよ。」
菌A「独占なんて考え方自体、技術を分かってない。技術は生かすためのもんよ。大きく生かして、その結果、価値が生まれ、お金に換わる。目先ばかりに意識が行くから、そんな面構えになる。」
「ああ、それで僕は目が飛び出てるんですか。なるほどー。」
菌B「いや、ごめん、また言い過ぎた。ま、とにかく、同じ志の仲間にはおおいに特許をオープンにせんといかんよ。」
菌C「長くなってきたからそろそろ終わらんと。とにかく伝わったかな。これからくる構造革命と、水不足。そして地域が役割に気づき、仲間と情報が集まり、危機を乗り越える発明が生まれる。」
菌A「全部僕らが歩いてきた道よ。だからやることははっきりしている。分かっている仲間たちはすでに動いてるよ。各分野ですでに細分化は進んでいる。」
「分かりました。やってみます。たぶん、また分からないことが出てきそうなので、そのときはまた会いに来ます。」
菌B「待っとるよ。これ以上に酔えるネタはないけんね。大いに楽しもうやないの。落ち込んだ時は、下を向いてみて。僕ら足元の土の中におるよ。」
※構造革命は創作です。
尾池哲郎(工学博士)
1.光岡知足「常在菌の働き、役割」(日サ会誌, 2002;22:3-12)
2.光岡知足「プレバイオティクスと腸内フローラ」(腸内細菌学雑誌, 2002;16:1-10)
4.福見秀雄「微生物学読本 からだの科学増刊13」(日本評論社, ISBN-13: 978-4535901131)